大腸菌群から大腸菌へ(銭湯・旅館等の湯の管理基準改正)

銭湯や旅館のお湯の基準が改正され、大腸菌群であったものが大腸菌に改められ、今月(令和7年4月)1日から施行されています。


この改正は、国交省・環境省所管の「水質汚濁防止法」に基づく排水基準等の省令改正を受けての措置です。湯船の湯の水質基準が、下水等の排水基準と同じというのは、少々違和感を感じますが、海水浴場の遊泳可否を決めるのも大腸菌群だっとということを思えば、公衆が(おしりを浸ける)湯も海水浴場も同じ行為ということも理解できるところではあります。


しかし、ここで注目したいのは、大腸菌群から「大腸菌」への項目の変更です。ご存じのように大腸菌群は、哺乳類の糞便由来の汚染を示す指標菌として我が国では食品衛生分野の基準に昔から幅広く採用されてきました。しかしながら、大腸菌群の試験法では糞便由来の菌以外にも、環境由来の菌も拾ってしまうことが知られています。そのため、米国やEU諸国、またコーデックス規格にも、日本でいう「大腸菌群」ではなく、「糞便系大腸菌群(Faecal Coliforms)」という項目を適用しています。この名称にも「群」とついているので、我が国の基準と同じように思われる方も多いと思いますが、試験法を見てみますと、これは紛れもなく我が国の「大腸菌 E.coli」に相当するものです。このE.coliは学名ではなく、あくまでも法令上の名称です(イタリック体ではなく区別のため立体活字で書くことになっています(いささかトリビアですが)。


そういうわけで、国際的には大腸菌(=E.coli = 糞便系大腸菌群)が食品基準になっていますし、我が国の大腸菌群では範囲が広い分、より厳しい基準といえます。しかしながら、必ずしも糞便系の汚染を示唆するものではないということが指標菌としては不適切なものである、と専門家などからも指摘されていました。そのため、冷凍食品をはじめとして基準の見直しの要請がこれまでもたびたび厚生労働省に寄せられ、当局もその必要性を認識して何度も改正の検討を行ってはいたのですが、あともう一歩というところで種々の理由から中断してきたというのが実情です。


今回、銭湯等の水質基準というところで大腸菌への移行が始まったわけですが、この動向が食品衛生分野へ波及することを期待したいと思います(ヘリオット)。