Communication Center for Food and Health Science/特定非営利活動法人食品保健科学情報交流協議会
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電力事情の悪化に対する取組みについて
2012年3月

 食品衛生への取り組みについて (提案 その4)

危機管理マニュアルを作ろう(見直そう)

NPO法人食品保健科学情報交流協議会 

 昨年の春の東日本大震災及びこれに伴う津波並びに原発事故から1年を迎えました。その時発生した電力事情の悪化は改善されず、原発問題として、長期化するとされております。これによる節電への呼びかけも継続され、突発的な停電の発生の可能性も未だに否定できません。

 先に、第3回目として、健康危害対策として「食品製造業における夏期電力節電に関する品質衛生対応について」を提案したところです。そこでは、多くの中小食品事業者では「危機管理マニュアル」又はこれに類する規定の定めがないところから、当面の対策を提案いたしました。

 新型インフルエンザの国内流行の際に多くの食品企業は、予想される社会活動の停滞に対応する事業継続計画(=BCP)を策定しました。各食品企業では、ここにインフラの停止を想定していました。しかし、今回の東日本大震災及びこれに伴う津波並びに原発事故による停電やその後の計画停電に活用しなかった中小の食品事業者が多かったようです。しかも、電力事情に合わせ、停電時のBCPを作成した施設がかなりあるとのことです。つまり、各種危機対応の基本を一元化する発想がなかったものとおもわれます。

 そこで、特に中小の食品製造業の方を対象に、危機管理システムの構築・マニュアルの策定の案の参考となるものを提案いたします。そこには、停電に主眼を置いた項目を設定する必要があります。インフラが停止する影響は、いろいろのケースがあることを想定しておく必要があると思います。

以上を踏まえて、現状における予防的な対応として、リスク分析の考え方を取入りいれた危機管理マニュアルのあり方を下記のとおり提案いたします。

1  食品企業にとって危機とは何か

企業にとって考えられる危機として、「食品企業の事故対応マニュアル」等のタイトルで出版されている物には、次の項目があげられています。

(1)   企業経営に関すること

(2)   不良食品等製造等に関すること

製品による食中毒等の健康被害の発生、製品中への異物混入の発生、不適正な表示、規格基準違反などが考えられます。

(3)   外部からのリスクの波及に関すること

食品テロの問題等を別に、地震など自然災害を原因とする電力等ライフ ラインの混乱による製造、流通等の管理への影響が考えられます。

 なお、リスク回避を当然のこととした上で、より高いレベルの安全と品質に注目した顧客からの(過剰と思える)要望に応えられない場合に、企業経営に関する危機となる状況がみられることがあります。

  電力事情の悪化は、外部からのリスクの波及により、不良食品等の製造等が起こりうるものであるとも考えられます。

 

2 食品企業の製造等に関わる危機の要因とは

  食品の安全に関わる不良食品等の製造等が考えられます。食品企業にとって、危機とは、「安全でない又はその可能性のある製品」及び「管理手段の有効性が実証できない事態」の発生です。

(1)   この危機を起こす要因は、「人的要因」・「機械的要因」・「システム的要因」

が考えられます。これらは、停電等突発的な発生により引き起こされる可 能性が高いものであることを認識する必要があります。

@    人的要因とは、人のエラーによるもので、従業員教育・訓練の不足人員

や組織体制の不備を原因とするものです。

A    械的要因とは、機械的・設備の問題によるもので、保守管理の不備や

不適切、使用方法の不適切・未熟を原因とするものです。

B   システム的要因とは、体制等全般の問題によるもので、管理システムの構築や運営の問題、また、人的要因を組織によりカバーできないことによる取扱い不備などが主な原因です。

2)危機を防ぐには、製造等過程における日常的なモニタリング等を行い、異常を発見した場合の対応を明確にし、必要に応じて修正、見直しを行うが、

この異常を見過ごした場合には事故品が発生します。

3)さらに、発生した事故品がチェックされないままに、出荷、流通、消費の過程に流出することが考えられる。これによる「健康被害の発生」や「違反・不良食品の発生」する事件へと発展し危機となります。

 

3 なぜ、危機管理マニュアルなのか

  食品企業にとって「健康被害等の事故は必ず起こり得る。」ものとして、危機管理を念頭に置き対応することは当然なことです。このために、危機に対応する体制を確立し、行動を明確にするための基本的方針と行動指針を危機管理マニュアルなどとして定めることは重要です。

  今や、電力事情の悪化は想定外ではなく、節電は継続され日常的使用電力の削減が求められ、突然の停電発生も想定内として対応する必要があります。

  食品事業者の電力事情の悪化を視野に入れた危機管理体制の確立とは、取り扱い食品について、自らの施設における安全対策を明確にするとともに、危害等の発生に迅速かつ適切に対応する自らの責任体制を徹底することです。これらの取り組みにより、顧客からも安全確保への取り組みが理解され、信頼されることになります。

 

4 危機管理マニュアルにはどんな項目が必要か

  危機管理は、単に健康被害等の事件対応として回収等をするものでは無く、品質を保証システムとして、品質保証・食品安全・危機管理を一体的に取り組むことにより完成するものです。すなわち、予防的な事前対策と発生後の事後対策による「万全な備えをしたことにより、安心を得る健全な経営が可能」になります。これを基本として「危機管理マニュアル」を策定します。

 

  一般的な危機管理についての参考とすべき書物を確認し項目を設定することが効率的です。(社)日本食品衛生協会、(財)食品産業センターなどから食品事業者の対応への手引きが示されています。

  これらを参考に作成しますが、どのような項目がなければいけないということはありません。取り扱う食品の特性、企業のあり方を考慮したうえで、法令遵守と企業の社会的責任(CSR)の立場から、基本方針を明確にしたうえで項目を設定することです。

  そして、電力事情の悪化は、停電という新たな危機の要素を生み出した。これに対応する項目を追加または策定する必要があります。

 

5 危機管理は、事故発生対応なのか

  危機管理を広義に考えると、事前対策としてのリスク管理、事後対策としてのクライシス管理があるとされています。リスク管理とクライシス管理の双方が補い合って食品の安全確保が強化されるとされています。

一般に危機管理といわれるのは、緊急事態発生時における二次被害の防止、軽減対応である。緊急事態の発生防止対策としてのリスク分析に基づくリスク管理があり、問題があれば原因を究明し、その排除を行います。

  危機管理の根本は、予防対策による危機の回避を前提とし、万が一の危機発生に際しては万全を期すことです。

(1)   電力事情の悪化への取り組みは想定される状況から、生産工程への悪影

  響の可能性を考慮し予防的対応を定めることです。

2)事件発生時の対応は、最悪の事態を招かぬよう被害者救済と二次被害の防止等に全力を尽くすことです。その後に、事業再開に向けた原因究明とその排除を行います。

 

6 予防的対応のためのリスク分析とは

  食の安全を守るためには、いわゆる危機管理としての事故対応をすることも重要ですが、あらかじめ予想される危険を特定しこれを排除することです。予想される危険は取り扱う食品ごとに異なり、その特性などを考慮して個別に対応を定めなければなりません。

  危機管理には、予想される危機について対応すべき優先順位を定めなければなりません。この優先順位に従い管理手段を決定します。リスク分析で予想される危機を評価することは、HACCPにおける危害分析と同じものです。また、危機の管理をすることは、重要管理点、管理基準の設定に相当するものです。評価や管理方針の過程をいかに関係者に徹底するかにより、安全確保が確実なものとなるかが決まります。この徹底することがリスクコミュニケーションです。当面するリスクを個別に、科学的手法により評価し、これに基づき管理し、それを徹底します。このシステムがリスク分析の手法です。

  安全管理、危機管理により、何を予防するのかを明確にする必要があります。食品企業は、「人的被害」・「経済的損害」・「信頼の喪失」を予防し、発生に際してはこれを最小限にすることです。

  食品企業にとって、危機とは、「安全でない又はその可能性のある製品」及び「管理手段の有効性が実証できない事態」の発生です。この危機を発生させないために、リスク分析の手法に基づき、その原因となるものや事象等を評価し、あらかじめ予防的対応(管理)を定めることは効果的です。

  平成23年末に、北海道のホテルにおいて、おせちの製造に携わった者からノロウイルスが検出され、危害発生の未然防止のためにおせちの販売を自粛した事例がある。

 

7 まず、作ってみよう。基本方針を明確に

  危機管理マニュアルを作成することは、自社の危機要因を明確にするものですから、作ることに意味があります。特に基本方針は、法令遵守と企業の社会的責任(CSR)を当然としながら、自社の社是、社訓などを踏まえたうえで、食品事業者として事業継続を確約するものでなければなりません。

危機管理は多くの場合、事件が発生してから、その対応を迅速にすること考えられている。食品企業として事件の発生は致命的な出来事となります。

  そこで、事件の発生を未然に防ぐための予防的対応を重視した管理(リスクマネジメント)を行うことが重要です。さらに、事件発生への迅速な対応を明確にした管理(クライシスマネジメント)を定めることは当然です。この両者が相互に機能することにより、企業の安全管理・危機管理への企業姿勢が明確になり、従業員の安全管理へより強く意識させるだけでなく、顧客、消費者の信頼を得ることができます。

 

8 危機管理体制を明確にしよう

この震災で、危機管理システムの未整備施設の多いことも判明しました。

 また、マニュアルのある施設でも、突然の停電や計画停電時にマニュアル通りに行動できなかったことが多かったようです。日頃からの備えを確認しておくために、早急にマニュアル等の策定・システムの整備を進めることは重要です。事故を事件にしない体制の構築をすることが大切です。

(1)   危機管理体制のあらましを次のように定めましょう

@   危機管理体制を明確にし、マニュアル等に基本方針を明確にし、これを関係者全員に徹底することが重要です。

A   取り扱う食品について、疑わしきは「仕入れせず、製造せず、出荷せず、販売せず」を安全対策の原則とし、危機への対応と併せ行う危機管理体制とすることが効果的です。

B   フードチェーン全体に対する自主管理責任を負うことを自覚します。

(2)   停電への具体的対応をあらかじめ定めて置きましょう

 @ 安全管理において対応すべき事項を追加し定めること。

A 危機発生時に、フードチェーンとの関係において対応すべきこと

 

9 停電に特化し、具体的に整理してみよう

  危機管理マニュアルを作成する前提条件である危機発生を予防する安全管理を確実にする「事故を発生させないための管理」と「事故が発生しても事件に発展しない管理」が定められている必要がある。この予防を行う安全管理が広義の危機管理であるリスク管理です。

リスク管理ができないことにより引き起こされる「健康被害」や「違反・不良食品」の発生等への対応がいわゆる危機管理(クライシス管理)です。

危機管理を効果的に行うためには、リスク管理とクライシス管理が連動し、相互に機能するようにしなければなりません。

従前のマニュアルに、停電対応として、次の考え方を導入してみましょう。

(1) 事故を発生させないために

停電の発生、回復、事業の再開への実施すべき事項を日常の品質、衛生管理規定等に定めておくことが重要である。規定等を定めるにあたり、危害を予測するとともに、予防的対応を定め、必要に応じて事前に検証することです。

なお、詳細については、提案その3「食品製造業における夏期電力節電に対応した品質衛生対策について」を参照ください。

 @停電時には、時間を確認し設備・機器等の電源を切断して、記録します。

A電気が回復したならば、時間を確認するとともに、加熱、冷却・保存の温

度を確認し、記録します。

 B電気の回復後における業務再開への準備はとして、次のことは重要です。

・原材料、仕掛品、製品衛生状態の確認し、その取り扱いを決定すること。

・廃棄物の処理、周辺の清掃等停電前の状態に回復すること。

・金属探知機・温度計等の機器の作動・精度を確認すること。

C電の安全、品質等への影響は、その時の季節と時間により異なるもので

  あるが、非正常な製造であったことと認識しなければなりません。

2事故を事件としないために

   停電時の生産は非日常の生産であり、製品は事前検証等による科学的裏付けと、明確な記録がなければ安全が確認できません。この条件に合わない製品は安全や品質について確証が得られないものとして事故品であると判断されることは当然です。

  停電前の製品にであっても、その保管経過や記録が明確でなく安全性・品質に自信が持てないものは、事故品として扱うことが望ましいことです。停電が広域にわたり発生した場合、流通・保管に信頼できないことがあります。

  停電に際し、製品を信頼できない場合、事故の発生はあるものとして、過剰と思われる対応をすることも危機回避のための重要な選択肢となります。このことに関する対応については、フードチェーン全体の課題として事前にその取り扱いについて検討しておくべきものと考えられます。

3事件にどう対処するのか

  安全対策を十分に行っても、事故品がチェックされずに流出して、健康被害を発生させ、または、違反食品となることがあります。まして、停電という混乱した事態においては、事故品の流出の可能性は高くなります。

  危機管理対応は、停電であるという理由で特別な対応はない。一般の事件と同様に製品の回収等による2次的拡大の防止と被害者救済を最優先事項として実施するものであることです。併せて、早急な原因の究明と排除及び改善を行わなければなりません。

 

10 危機管理マニュアルを効果的に運用しよう。

  福島第一原発における事故発生直後におけるマニュアルに寄らない対応に問題があったとの報道がされました。このことにより、重大な被害をもたらしたとの疑いが指摘されています。

事故発生時における対応のルールはそれが運用されて初めて生きるのです。いかなるケースにおいても、適切な運用ができるようシュミレーションを行うことは周知のことです。これを行うなどの適切な準備がマニュアルの適切かつ効果的な運用につながります。マニュアルは作ることが重要ではなく、運用することに意味があり、問題があれば改善します。効果的な運用です。

  

  「1ドル、10ドル、100ドルの法」という言葉があります。

  「安全対策に1ドルを掛ければ、問題があっても10ドルで済みますが、1ドルを惜しんだり、掛け捨てたりすると、100ドルの損害を被る。」との意味です。このことは、マニュアルを策定することも重要ですが、さらに適切な運用が大切であることを示唆するものであります。すなわち「備えあれば、憂いなし。」ということです。


                                                 以上

食科協では、この問題について、提案を継続することとしております。
本件に関するご意見・ご質問等は、Fax又はE-mailによりお願いします。

             特定非営利活動法人食品保健科学情報交流協議会
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